ニュースの概要
インド工科大学カンプール校が17年かけて続けてきた地盤研究が、ガンジス川沿いの都市カンプールとプラヤグラージ周辺で、強い地震により液状化が起きる恐れがあると指摘した。液状化とは、揺れで砂粒の結びつきが崩れ、地盤が一時的に液体のようになる現象である。研究チームはインド各地で土の試料を集めて調べ、地域によっては深さ30〜40メートルにわたり緩い砂の層が続くことを確かめた。特に地表から8〜10メートルほどが緩く、水を含んだ砂地盤になっている場所では、建物の沈下や傾き、地面の割れといった深刻な被害が出うるという。人口の多い広大な沖積地帯では、揺れそのものより足元の性質が被害を左右する、という警告である。
引用元: IITカンプール研究、カンプールとプラヤグラージ周辺の液状化リスクを指摘(The Economic Times)
分析・見解
揺れの強さより、砂の緩さと水が被害を決める
液状化は、地震の大きさだけでは決まらない。砂が緩く、しかも水で満たされていること。この二つが重なると起きやすくなる。今回の研究が注目したのは、地表から8〜10メートルほどの浅い層である。ここが緩い飽和砂(=水で満たされた砂)だと、揺れで水圧が急に上がる。砂粒は水に浮いたような状態になり、地面は建物を支える力を失う。
深さ30〜40メートルに及ぶ砂層が確認された点も重い。砂が深くまで続くと、浅い部分だけを固めても安心できないからだ。杭を打つ深さや補強の考え方そのものが変わってくる。
17年分の地道な土の調査が持つ価値
17年かけて各地の土を集めた事実は、派手な予測より地味な観測の価値を物語る。被害予想地図は、断層の位置だけでなく、足元の土の性質まで描いて初めて実用になる。
日本には苦い経験がある。1964年の新潟地震では、傾いた高層アパートの姿が世界に知られた。2011年の東日本大震災では、千葉県浦安市などの埋立地で道路や水道が長く傷んだ。建物は倒れなくても、暮らしは止まる。インドのガンジス川流域も、川が運んだ砂や泥が厚く積もった土地であり、条件はよく似ている。
震源が遠い平野の都市でも油断できない理由
カンプールやプラヤグラージは、ヒマラヤ周辺の主要な地震帯から離れている。そのため、地震は山岳地帯の話だと受け取られがちだ。しかし、柔らかい堆積層(=川が運んだ土砂のたまり)の上では、揺れが長引いたり強まったりすることがある。1985年のメキシコ市地震では、震源から約400キロ離れた軟弱地盤の街に被害が集中した。
震源の遠さと被害の小ささは、結びつかない。地震対策を震源までの距離だけで語ると、平野の大都市ほど見落とす。ここに今回の研究の核心があると私は考える。
研究結果を制度と現場に落とせるかが課題
課題は、結果をどう使うかにある。土の調査地点は限られており、街区ごと、敷地ごとの危険度までは分からない。広域の警告は、個別の安全証明ではない。
液状化は、人命を直接奪うより、家屋を傾けて住めなくする被害が目立つ。日本では、地盤改良、地下水位の管理、購入前の情報開示が対策の柱になった。インドでも、建築確認の段階で地盤調査を求める流れが強まるかどうかが、研究を命を守る仕組みに変える分かれ目になる。
ビジネスへの影響
工場や倉庫の用地選びは地盤の確認から
インドで工場、倉庫、データセンターなどを計画する企業は、用地選定の段階で地盤調査報告書を求めたい。見るべきなのは、地表から10メートルほどの土質、地下水位、砂層の厚みである。調査費用は建設費全体から見れば小さい。建てた後に杭や地盤改良を足すより、設計前に知るほうがずっと安く済む。賃貸物件でも、貸主に調査結果の提示を求める価値はある。保険会社も地盤情報を重く見るため、保険料や補償の範囲にも響きうる。
事業継続計画に「地面が使えない」場面を入れる
建物が倒れなくても、周辺の道路、配管、電柱が傷めば操業は止まる。浦安市の例のように、復旧に数週間から数か月かかることもある。供給元が同じ沖積地帯に集中していないかを点検し、代替の拠点や在庫の置き場所を分けておきたい。従業員向けには、揺れの後に地面から水や泥が噴き出すことがある、という基本知識を共有しておくとよい。
自治体や不動産会社が今できる備えとは
自治体が学校や病院など公共施設の地盤を優先して調べ、結果を公開すれば、民間の判断も進む。不動産会社は、買い手や借り手に地盤情報を説明する習慣を作ることで、信頼を築ける。建設会社にとっては、地盤改良や杭基礎の提案力が商機になる。ただし今回の研究は広い地域への警告であり、個々の敷地の安全を保証するものではない。最終的には現地での調査で確かめる必要がある。
