ニュースの概要
佐賀県唐津市のワイビーエムが、地盤調査に使う自走式のICTボーリングマシンを開発したと、佐賀新聞が報じた。ポイントは三つある。一つ目は、機械を小型にしたことで、これまで入りにくかった狭い敷地でも作業しやすくなる点。二つ目は、自力で動ける自走式であること。三つ目は、調査で得たデータを関係者で共有し、作業全体の効率を上げようとしている点だ。地盤調査は家や建物を建てる前の基本作業だが、現場の条件は年々厳しくなっている。本稿では、この開発が何を変えうるのかを整理する。
引用元: ワイビーエム(唐津市)が自走式ICTボーリングマシンを開発 地盤調査用 小型化で狭小地でも作業可、データ共有で効率化も(佐賀新聞)
分析・見解
小型で自走できるから、入れなかった現場に入れる
地盤調査用のボーリングマシンといえば、大きくて重い機械という印象が強い。運ぶだけでトラックやクレーンが必要になり、搬入路が狭い敷地では、人力で機材を運んだり、調査そのものを簡易な方法に切り替えたりする場面もあった。機械が小さく、しかも自力で動けるなら、この手間はかなり減る。
都市部の住宅地、斜面に建つ家の建て替え、山あいの小さな造成地。調べたくても機械が入らない場所は、実は少なくない。住宅向けではスウェーデン式サウンディング(=おもりと棒で地面の硬さを測る簡易試験)が広く使われる。手軽だが、深い層や小石の多い地盤は苦手だ。ボーリングはそれを補う方法で、小型化が進めば両者の使い分けの境目が動く。精度の高い調査を狭い場所へ持ち込めること。これが今回の開発の一番の価値だと考える。
記録をその場で共有できれば、やり直しが減る
ICT(=情報通信技術)の役割は、現場の記録を速く、正確に回すことにある。ボーリングでは、掘った深さ、土の硬さ、地下水の位置などを記録する。従来は現場で紙に書き、事務所へ戻ってから清書する流れが一般的だった。転記ミスも起きるし、報告書ができるまで待たされる。
機械が測った値をそのままデータで共有できれば、設計者や施工会社が同じ数字をすぐに見られる。硬い地層が想定の深さで出たか。追加で調べる必要があるか。こうした判断が、その日のうちにできる。機械の小ささより、こちらのほうが全体の工期に効く可能性がある。
人手が減る建設業で、機械が作業を支える意味
建設業の就業者数は、1997年ごろの約685万人から近年は約480万人へ、およそ3割減った。調査会社も同じで、熟練のオペレーターは年々減っている。腕前に頼る作業を、機械の側が支える方向は避けられない。
国土交通省が2016年に始めたi-Construction(=ICTで建設現場の生産性を上げる取り組み)は、土を掘る工事や測量では広がった。一方、地盤調査は小さな事業者が多く、取り組みが遅れがちだった。地方の企業が自ら機械を作った点に、この空白を埋める動きを見る。
評価の分かれ目は、深さの限界とデータの形式
小型化には代償がある。機体が軽いと、深く掘るときの安定に制約が出やすい。どの深さ、どの地盤まで使えるのかが示されて、初めて本当の評価ができる。
データ共有も、形式が各社でばらばらだと効果が薄れる。報告書の様式にそのまま載せられるか、既存の解析ソフトと連携できるか。ここまで整えば、機械は単なる道具から、調査の流れを変える仕組みになる。地盤の記録は、家が傾いたときや液状化が起きたときに、後から原因を確かめる証拠にもなる。データが書き換えられにくい形で残る点も、評価の対象になるだろう。
ビジネスへの影響
調査会社が導入前に確かめたい三つの点
まず、対応できる深さと地盤の種類。次に、搬入や設置にかかる人数と時間。最後に、データを既存の報告書や解析ソフトへ移せるか。カタログの「小型」「ICT」という言葉だけで決めると、現場で使えないという事態になりやすい。可能なら自社の典型的な現場で試験運用し、従来の方法と所要時間や費用を比べたい。
また、操作を覚える期間も見込んでおく。若手が扱いやすい設計なら、熟練者の退職に備える手段にもなる。価格だけでなく、故障時の修理体制や部品の入手しやすさも確認したい。
狭小地の案件を取りに行く営業の考え方
これまで断っていた案件や、簡易調査で済ませていた案件が、受けられる可能性が出てくる。都市部の狭小住宅、建て替え、擁壁の近くなどは地盤への不安が大きく、施主も説明を求めやすい。「機械が入らないので簡易調査です」から「詳しく調べられます」へ変われば、提案の質が上がる。
建設会社や工務店は、調査会社を選ぶ基準に「狭い現場への対応力」と「データの受け渡しの速さ」を加えてみたい。設計変更の判断が早まれば、工期の遅れや追加費用を抑えやすくなる。
施主への説明と記録の保管を強みにする
地盤は完成後に見えなくなる。だからこそ、調べた記録の透明性が信頼になる。データを共有し、いつ誰が確認したかを残せば、施主や自治体への説明材料として使える。ただし、個人の土地情報を含むため、閲覧できる人の範囲や保管期間の決まりは先に整えておきたい。最初は一部の案件だけで始め、記録の形式を固めてから広げると失敗が少ない。導入は機械の購入で終わらず、運用ルールづくりまでが一つの投資と考えるべきだ。
